映画『無音の叫び』では、山形県の小さな村で誕生した木村迪夫(きむらみちお)さんの半生を振り返りながら、人間的な魅力が描かれていました。
木村迪夫さんは、反戦への想いや社会の矛盾を綴り続けてきた「農民詩人」なのですが、エッセイストや詩人とは何が異なるのでしょうか。
日本では木村迪夫さんのほかに、映画『無音の叫び』でも登場する真壁仁(まかべじん)さんが知られていますが、どのような活動をしているのか謎に包まれている部分も多いです。
本記事では、農民詩人とはどのような存在なのかお伝えしたうえで、代表作や映画、映画『無音の叫び』の基本概要をお伝えします。
農民詩人とは、具体的な定義があるわけではありません。
実際に映画『無音の叫び』で描かれている木村迪夫さんには「農民詩人」「文筆家」「エッセイスト」「ジャーナリスト」などの肩書きがあります。
ただし、あえて「農民詩人」と呼ぶ詩人たちに共通しているのは、農家で生まれて幼少期から農業に従事していた経験を生かして農民視点から詩を作っている点です。
農民視点で生み出された詩には、地方での生活、自然豊かな情景など穏やかな表現がある一方で、農村社会の貧困や苦労を表現することもあります。
時にリアルで生々しく、東京での暮らしとの対比を詩に落とし込んでいます。
日本社会の矛盾や消費社会への批判などを主張する作品も珍しくないことから、社会派なイメージを持つ人も多いです。
また、輸入産業が当然になっている現代社会では見落とされがちな農業の重要性を再認識させられる作品も多く存在します。
日本を代表する農民詩人といえば、以下の3人が挙げられます。
それぞれの農民詩人について解説します。
木村迪夫(きむらみちお)さんは、1935年10月9日に山口県上山市の小さな農村で生まれた農民詩人です。
戦争が終わって高度経済成長期に入った日本は、大量生産・大量消費の時代に突入し、目まぐるしく変化するトレンドの波に乗って派手な生活が流行っていました。
一方で、木村迪夫さんは父親を戦争で亡くしたため、家族を守るために貧しい農家として東京の人たちとは真逆の苦しい生活を送っていた過去があります。
そんな農民の厳しい現実、日本社会の矛盾、反戦への強い想いを詩に綴って詩人としての活動をはじめ、日本を代表する農民詩人まで上り詰めました。
代表作は、以下のとおりです。
農業に従事することの喜びと苦労、自然との共生を題材に良い部分も悪い部分もリアルに綴った「農業詩集」は、多くの日本人に読まれて愛されました。
そのほかにも、田園風景や農作物が出荷されるまでの過程を通して感じられる自然由来の美しさを表現した「田園の声」や、自身の経験をもとに自然に囲まれた環境で生活する様子を描いた「風の中の農夫」では、農業の重要性を強く訴えます。
木村迪夫さんは、自身を題材にした映画『無音の叫び』でも語っていますが、戦死で父親を亡くしてから苦しい子ども時代を経験していました。
そのときに経験した苦悩や社会格差を包み隠さず詩に落とし込みますが、同時に自然との調和や農業から得られる豊かで穏やかな感情にも触れています。
また、山口県上山市を題材にした作品や地域文化活性化のための活動も積極的におこなっており、教育的要素も強い特徴があります。
真壁仁(まかべじん)さんは、1907年に山形県山形市で生まれ1984年に亡くなっている農民詩人です。
農家の家庭に生まれた真壁仁さんは、貧しい百姓たちが解放されるため農民組合を結成して声をあげていた青年時代から、農民詩人として活動している間も常に対社会的な立場を取ってきました。
詩人として活動する一方で、思想家としても知られており、青年や婦人の人権や解放のための運動に強い理解を示し、惜しみない援助と交流を続けた人物です。
代表作は、以下のとおりです。
農家の子どもとしての経験を通じて農村社会の日常や田園特有の情景を喜びいっぱいの言葉で綴った「田園の詩」は、自然と共生する美しさが感じられます。
そのほか、農作の根源的な部分を追求して土や自然の声を題材にする「土の声」や、自然の変化や生命の誕生と終わりを題材にした「自然の息吹」も感動的です。
どの作品も、農家として苦しい時代を経験しつつも情熱的に農業の重要性を訴えます。
映画『無音の声』で描かれている木村迪夫さんは、28歳差の真壁仁さんを第二の父としており、農民詩人としての活動や農業の重要性について声を上げ続けている姿勢も強い影響を受けているのでしょう。
山之口貘(やまのくちばく)さんは、1903年に沖縄で生まれ1963年に亡くなっている農民詩人です。
貧しい農家の家に生まれた山之口貘さんは、農民としての暮らしや沖縄の事情を数多くの作品で取り扱ってきました。
農民や都市の下層労働者として働く視点を持ち続け、貧困や権力による抑圧など不条理な社会に対して切り込む作品も多くあります。
貧困や格差などシリアルになりがちなテーマを選びつつも、悲哀や怒気だけでなくそこには必ず山之口貘さんのユーモアが詰め込まれており、愛されていました。
代表作は、以下のとおりです。
「桃太郎」は日本昔ばなしとして時代を超えて現代の子どもたちにも読まれている不朽の名作です。
そのほかにも、雨の日にしか感じられない喜びを綴ったリズミカルな言葉遣いが特徴的な「あめふりくまのこ」や、ユーモアを交えて生活の知恵や教訓を綴る「おばあさんの知恵」で知られています。
人間的な温かさ、どの時代の子どもたちも楽しめる普遍的なストーリー、社会的な批判を交えた思想などが同時に楽しめるのが山之口貘さんの魅力です。
農民詩人は、日本特有の概念的なものだと思われがちですが、ほかの国にも存在します。
たとえば、スコットランド出身ロバート・バーンズさんは、イギリスでは文学史において非常に重要な立ち位置にある詩人として知られています。
1959年〜1796年の生涯で、農民出身の経験を生かして、農村社会の日常や自然との共生を美しく表現する一方で、イギリス社会の格差に対する批判や人間性を深く洞察して語りかけました。
日本と同様にイギリスでも、農民の生活は苦しく、都市部で生活する人々とは大きな格差がありました。
ロバート・バーンズさんは農民詩人として、自然愛・農村情景の美しさ・農民たちの日常生活を叙情的に描きつつ、人間の平等性や自由の大切さを訴え続けています。
社会地位の低いとされる農家としての立場から、イギリス社会の問題を鋭く切り込んでいるのも印象的です。
代表作は、以下のとおりです。
ロバート・バーンズさんの作品タイトルを見て分かるとおり、一般的な英語ではなくスコットランドの方言が使われており、地域特有の文化や伝統を感じられます。
なかでも「To a Mouse」は、農業に従事しているときにネズミの巣を壊してしまったことをきっかけに、持ち主であろうネズミと対話する詩です。
農業に従事するからこそ日常で感じる生命や自然とのつながり、ネズミを通して痛感する人間の無力さ、人生で立てた計画がいつでもうまくいくわけではないという運命が題材になっています。
農民詩人としても根底的な部分は、日本もイギリス(スコットランド)も同じであるものの、地域性において違った楽しみ方ができるでしょう。
映画『無音の叫び声』は、『いのち耕す人々』や『天に栄える村』などの長編ドキュメンタリー映画でメガホンを握った原村政樹が監督と務めた作品です。
農民詩人を代表する木村迪夫さんの半生を通して、社会全体の格差や戦争によって失うものの残酷さなどを改めて感じることができます。
農民詩人同士の対話も盛り込まれており、農業の大切さ、そして人間が生きていくために平和と平等と自由がどれほど重要なのかを訴えています。
タイトル | 無音の叫び声 |
時間 | 122分 |
制作年 | 2016年 |
配給会社 | 映画「無音の叫び声」製作委員会 |
監督 | 原村政樹 |
映画『無音の叫び声』の配信状況をリサーチした結果は、以下の通りです。
アプリ名 | 映画『無音の叫び声』の配信状況 |
---|---|
U-NEXT | × |
Netflix | × |
Amazonプライムビデオ | × |
Hulu | × |
FODプレミアム | × |
Rakuten TV | × |
クランクイン!ビデオ | × |
DMM TV | × |
TELASA | × |
dアニメストア | × |
Disney + | × |
映画『無音の叫び声』の配信状況を調査したところ、2024年4月時点で配信しているアプリ・動画配信サイトはありませんでした。
本作は、クラウドファンディングを通じて制作費を集めており、商業作品(配信等で収益化を目指すもの)とは一線を画していることが配信がない理由と関係しているのではないかと推測できます。
とはいえ、近年では映画『無音の叫び声』のようなドキュメンタリー作品の視聴方法も多様化しつつあるため、近々配信サイトで見れる可能性は十分に期待できます。
より詳しい配信状況や評判に関しては、「映画『無音の叫び声』を無料視聴できる?見れるアプリや作品の見どころまとめ」をチェックしてみてください。
本記事では、農民詩人とはどのような存在なのか解説しました。
日本国内では、映画『無音の声』でも描かれている木村迪夫さんほか、真壁仁さん、山之口貘さんが知られており、3名とも地方の農村出身という共通項があります。
自然情景や生き物との共生を美しく描写する反面、社会システムの格差や不条理を痛烈に批判しているのが特徴的です。
また、農民詩人は日本特有の存在ではなく、スコットランド出身のロバート・バーンズさんがイギリス文学史でも重要な存在として語り継がれていることがわかりました。
今回は、4名の農民詩人それぞれの代表作を紹介しているので、興味のある作品は手にとって読んでみてください。