映画『無音の叫び声』は、自身の過酷な過去を通じて社会の矛盾や反戦を訴える”農民詩人”の半生を映した長編ドキュメンタリー映画です。
山形国際フォキュメンタリー映画祭2015公式上映作品として、劇場上映されています。
戦後の日本は、貧しく苦しい時期もありましたが、瞬く間に高度経済成長期を迎えて、世界の中でもトップクラスの発展国へと成り上がりました。
しかし、その陰では”農民”として経済成長期の恩恵を受けることなく、ひどく貧しい底辺の暮らしを強いられる地方の村人たちも多くいたのです。
映画『無音の叫び声』では、山形県の小さな村に生まれて、多くの不幸な経験をしながらも生き抜き、現在は「農民詩人」として活動する木村迪夫に焦点を当てています。
戦争を経験した層が高齢化し、現代人が「戦争」への意識が薄れている時代こそ、見るべき長編ドキュメンタリー映画といえるでしょう。
映画『無音の叫び声』は、農民詩人を代表する木村迪夫さんに焦点を当てて、日本の農業と戦後の歴史を見つめ直す長編ドキュメンタリー映画です。
『いのち耕す人々』や『天に栄える村』などの長編ドキュメンタリー映画でメガホンを握った原村政樹が監督と務めます。
タイトル | 無音の叫び声 |
時間 | 122分 |
制作年 | 2016年 |
配給会社 | 映画「無音の叫び声」製作委員会 |
監督 | 原村政樹 |
映画『無音の叫び声』のスタッフ・キャストは、以下の通りです。
監督 | 原村政樹 |
構成 | 原村政樹 |
プロデューサー | 高橋卓也 阿部啓一 桝谷秀一 阿部洋子 宮沢啓 玉津俊彦 原村政樹 |
撮影 | 佐藤広一 渡辺智史 原村政樹 |
編集 | 原村政樹 |
音声 | 佐藤広一 松田健史 渡部一徳 |
音楽 | 佐々木良純 |
演奏 | 安久津勝信 大澤希代子 佐々木良純 |
音楽録音 | 佐藤実香 松田健史 |
題字 | 草苅一夫 |
地図 | 木下一志 |
映像技術 | 緒方竜 中川晴樹 杉田広毅 |
整音 | 丸山晃 本間亮 |
語り | 室井滋 |
朗読 | 田中泯 木村迪夫 栗田政弘 |
出演 | 木村迪夫 木村シゲ子 |
昭和10年(1935)山形県上山市生まれの詩人・木村迪夫さんは、小さな村の農家の子供として生まれます。
父親の文左ェ門は、日本兵として「満州事変」「日中戦争」「太平洋戦争」の3つの中国戦線に送り込まれた結果、34歳の若さで戦病死。
父の戦死により、母親や祖母など家族を支えなくてはならない木村さんは、10代の若さで戦争の悍ましさを体感することとなるのです。
戦後、大都市を中心に日本が高度経済成長期の影響でどんどん豊かな暮らしへと変わっていく人たちの影に隠れて、農民として変わらぬ生活を送る木村さんたち。
30代。出稼ぎのために東京に来た木村さんは、スーパーで着物を買ったものの、サイズが合わないからという理由で簡単に捨ててしまうような人々を目にして驚愕します。
押し寄せる高度経済成長の波によって豊かなになったように見えますが、日本は、経済的に滅びるのではないかと思いったと話すのでした。
自分の数奇な半生を振り返りつつ、徐々に芽生え始めたのが「社会の矛盾」と「反戦」への強い思いだったのです。
農民としての暮らしをもっと多くの人に知ってもらいたいと考えるようになった木村さんは、小川プロダクションを運営する小川紳介さんを地元の牧野村に招待します。(のちに小川紳介さんは、牧野村で数多くの映像作品を生み出すこととなります。)
自身は「農民詩人」として活動を始めながら、多くのクリエーターと協力しながら農民の暮らしを発信することに。
40代。遺骨収集団員としてウェーキ島に上陸し、自身が経験した激動の戦後生活を元に、再び反戦平和を強く願うのでした。
60年間の詩人人生で、16冊の詩集を出版し、丸山薫賞などの詩人賞を受賞するほど評価され、日本を代表する農民詩人となった木村さん。
東北の小さな村出身の木村さんの半生から、戦後日本の歩み(歴史)を見つめ直すことができます。
映画『無音の叫び声』では、俳優・田中泯さんが木村迪夫さんの詩を朗読します。
代表的な一作が以下の通りです。
にほんのひのまる
なだてあかい
かえらぬ
おらがむすこの
ちであかい
『祖母のうた』/詩:木村迪夫
木村迪夫さんが10代の頃に亡くした父親は、「満州事変」「日中戦争」「太平洋戦争」と3つの戦争に送り込まれて、非常に若い年齢で人生の幕を閉じました。
戦争から帰ってくることができても、再び戦場へと送り込まれ、死が訪れるまでは永遠と繰り返される運命に抗うことができなかった戦時中の日本人たち。
母親は、”国のため”といえど、どのような気持ちで息子を見送っていたのでしょうか。
最後の3文に綴られた「かえらぬ おらがむすこの ちであかい(私の息子は血塗られて帰ってこない)」は、悲痛の思いが込められていることがうかがえます。
木村さんの家族に限らず、多くの命を奪い、永遠の別れの挨拶をする間もないのが戦争です。
本ドキュメンタリー作品のタイトルにもなっている通り、言葉にならぬ”無音の叫び声”が詰まったような詩が、引用されていました。
映画『無音の叫び声』の魅力ポイントは、以下の通りです。
それぞれの魅力ポイントについて解説します。
映画『無音の叫び声』では、一人の農民視点で戦後の日本が描かれています。
戦後の日本といえば、慢性的な貧困に悩まされるものの、1955年〜1973年の約20年間で経済成長率が平均10%前後のペースで上昇し続ける「高度経済成長期」に突入しました。
高度経済成長期への突入するきっかけとなった背景には、重化学工業分野の技術革新・ドメスティックマーケットの拡大・海外資源の安価な輸入などがあります。
このような情報から「戦後の日本は豊かだった」と認識されていますが、木村さんが暮らしていた東北の小さな村など、農業を営む地域では豊かとは無縁の暮らしが強いられていました。
木村さんは「底辺の暮らし」として表現していますが、戦争で大黒柱である父親を亡くした木村さんは、家族を支えるために農民として戦前・戦時中と変わらぬ生活を続けます。
そんな中で、出稼ぎのために東京へ上京した時に、東京で暮らす人々の暮らしぶりを見て、東北の村での暮らしとの落差に衝撃を受けるのです。
農民詩人として活動する木村さんなりの言葉で、その瞬間に感じたことや実際に目で見たもの、耳で聞いたことを語っています。
映画『無音の叫び声』では、詩や農民の暮らしの映像から”反戦平和”を訴えています。
現代の日本では、戦争を経験した人たちの高齢化が進み、日本で暮らす多くの若者が”戦争”に対して、特別な感情を抱くことが難しいとされています。
義務教育や家族同士の会話の中で、実際に戦争を経験した人たちから話を聞く機会はあるかもしれませんが、以前ほど身近な問題として捉えられにくくなっているのが現状です。
暴力や戦争は物事を簡単に解決するために有効ですが、勝った側も負けた側も多くの損失を生み出します。
木村さんは10代の頃に父親を戦争で亡くして、残された家族たちを支えていますが、貧しい生活の様子、大切な人を亡くした家族の苦悩などを詩に綴っていました。
本編では、木村さん本人が朗読していたり、俳優・田中泯さんが力強く朗読しているシーンが登場します。
戦争に対する意識が薄まっているときこそ、実際に経験した人たちの言葉に耳を傾けることが大切です。
映画『無音の叫び声』では、農民詩人として60年以上の活動実績を持つ木村迪夫さんの詩が数多く登場します。
小説や映画のセリフと異なり詩の朗読は、独特です。
堅苦しい表現や婉曲的な言い回しをすることもありますが、イラストや動画が存在しないからこそ、言葉そのものに耳を傾けて、風景や感情を想像することができます。
また、本編では同じ詩(祖母のうた)を木村さん本人と俳優・田中泯さんがそれぞれ朗読する場面が登場します。
自分が作った詩を読む木村さんと、演技というカテゴリーで表現のプロフェッショナルである田中泯さんでは、どのように朗読での表現方法が異なるのでしょうか。
それぞれの違いを楽しみながら詩の朗読を聴けるのも映画『無音の叫び声』の魅力と言えるでしょう。
映画『無音の叫び声』の配信状況をリサーチした結果は、以下の通りです。
アプリ名 | 映画『無音の叫び声』の配信状況 |
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U-NEXT | × |
Netflix | × |
Amazonプライムビデオ | × |
Hulu | × |
FODプレミアム | × |
Rakuten TV | × |
クランクイン!ビデオ | × |
DMM TV | × |
TELASA | × |
dアニメストア | × |
Disney + | × |
映画『無音の叫び声』の配信状況を調査したところ、2024年4月時点で配信しているアプリ・動画配信サイトはありませんでした。
本作は、クラウドファンディングを通じて制作費を集めており、商業作品(配信等で収益化を目指すもの)とは一線を画していることが配信がない理由と関係しているのではないかと推測できます。
とはいえ、近年では映画『無音の叫び声』のようなドキュメンタリー作品の視聴方法も多様化しつつあるため、近々配信サイトで見れる可能性は十分に期待できます。
より詳しい配信状況や評判に関しては、「映画『無音の叫び声』を無料視聴できる?見れるアプリや作品の見どころまとめ」をチェックしてみてください。
本記事では、映画『無音の叫び声』のあらすじについてまとめました。
一般的に上映されている商業映画のようなスペクタルさやドラマティックな展開は描かれていないものの、農民視点の戦後の日本を丁寧に映し出しています。
高度経済成長期によって日本がどのように変化していったのか、人々の消費の荒さ、大都市と地方の生活格差など、あまり注目されていない部分に焦点を当てているので新たな視点で日本の歴史を知ることができるでしょう。
さらに、現代の日本人にも通ずるような「食」や「消費」への向き合い方に関する問題提起もされており、思わず背筋がスッと伸びて、生活の仕方を見つめ直したくなるような作品となっています。